naka_nora89’s blog

思うがままに、あるがままに。

黒歴史 過去作供養(中学生編)

―あの時あたし達は、そのしなやかで細い腕に、確かに抱いていたんだ。青春とゆう時代を―


「ね、新発売のランコムのマスカラ試してみる?気に入ったらあげるよ~」

西日が強くなってきた屋上で、ソプラノボイスが鏡に映った自分のまつ毛を指でちょいちょいと構いながら聞く。
その声は、グラウンドで泥まみれになって練習している野球部のむさ苦しい掛け声には似つかわしくない程透き通っている。

夏休み気分が抜けきらない、9月に入ったばかりの日暮れ時は、まだ蒸すけれどキライじゃなかった。
「また買ったの?つーか、最近買いすぎじゃん?」
先週もシャドウのパレットを貰ったばかりのあたしはと言えば、タバコの吸いすぎで少し擦れた声でぼんやりと、だけどはっきりと、透明マニキュアを塗った爪を乾かそうと手をヒラヒラしながら返す。

「だってー、パパ金持ってるもん。うしし」
わざとらしく笑って見せるこずえはあたしの爪が乾いてないのに気を利かせたのか、愛煙のタバコをパクリと咥えさせて、火まで点けてくれた。

「ゆーちゃん、咥えタバコ似合いすぎ~」
ケラケラと気持ちよいほど軽やかに笑う彼女だけど、6年も前に両親が離婚して、スナックで働いていたお母さんに引き取られ結構大変な生活だったらしい。

しかし、つい1ヶ月ほど前に嬉々として社長のパパができたよんって細くて白い指でVサインを作ったのだった。それからと言うものいつもこずえのお財布はホクホクで、高校2年生には似合わないような高そなゴハンも食べさせてもらった。(正直緊張して味は覚えていないんだけど)

こずえはそれはそれは可愛くて、近々モデルになるだの、歌手でデビューするだの、実は有名女優の隠し子だの、学校中で噂になっていた。
丸くて小さな頭。短い黒髪はキラキラと光を反射する。アーモンドみたいな大きい目は長いまつ毛が縁取っていて。鼻の形だって文句の付けようがない。ぽってりした唇はいつだってピンク色に潤んでた。
そんな子ならやっかまれて当たり前なのだけど、こずえは違った。彼女は決して気取ってなどいなかったし、バスケの時間に本気になりすぎて鼻の頭を擦りむいた事もあった。そう言えば男子とケンカもしていたっけ。
入学したばかりの頃は嫌がらせもあったらしいが(こずえはそう言った類のグチはこぼさないけど)、今は気取らないその性格から、皆から好かれていた。

そんなこずえと仲良くなったのは夏休み前だった。

あたしは決して目立つ訳でもない。むしろ浮いていたかも知れない。女子のやかましい甲高い声や、恋愛話。なんだか馬鹿馬鹿しくて入り込む気もなくって。サバサバした性格は男子に気に入られ、どちらかと言えば男子とTVや音楽の話ばかりしていた。
あたしは1年の途中で転入してきたのだけれど、前の学校にいた頃に一通り済ませているし、今更そんな子供っぽい会話で弾む事もできなかったのだ。

いつもの様に屋上のカギをヘアピンで開け(今時南京錠なんて簡単すぎる)給水塔の上に昇ってぼんやりと寝そべりながらタバコを吸っていた。侵入されるのは諦めてるのか先生は来なかったし、他の生徒も出入りはしているみたいだったけど、あたしが行く時間で会った事はなかった。その時までは。
不意にドアの軋む音が聞こえた。あたしは少しがっかりしていた。この時間に一人ここでボケーっとするのが好きだったのに・・・。とその時、聞きなれたシュボって感じのライターをする音がして少し興味の湧いたあたしは、上体を起こして覗いた。パチリ、と目が合った。
「お仲間、はっけーん。やっぱ授業後の一服はうまいですなぁ」
その親近感ある口調に目丸くするもロクに返事もせず(彼女もそれ以上は言わなかったし)彼女がそうする様に茫洋と風景を見ていた(その時こずえに対してのイメージはいつも周りに友達がいて、ひとりでタバコを吸うヤツだなんて思っても見なかったのだ)

 

 

-------------以上、書き留めてあった中学生時代のノートより。

岡崎京子さんに影響バリバリに受けてるな、と思うとなんだか黒歴史もかわいく見えますね。久しぶりにワード使ったりで文字打つのって楽しいなあ、でもネタねぇなあ、から過去からもらってきました。中学の自分に殴られそうだけど、まあいいじゃん!な!自分!